下北沢最大の文化施設、北沢タウンホールにはスケジュールがない。
正確にいえば、あるといえばあるのだが、それは北沢タウンホールの
事務室の小さなホワイトボードにしかない。
スケジュールというのは文化施設にとってとても重要なもので
他のイベントに来たお客さんの「あ、こんなのやってるんだ」という
ささやかな記憶に残るだけでも広告としての意味がある。
けれどもっと重要なのは、スケジュールの存在を介してイベント同士の
横のつながりが広がってゆくことであり、そこでは単なる日程表ではなく
地域の文化的コミュニティを育てるメディアの役割を担っているのだ。
「なにかまとめて日程を把握できるものってありますか?」
以前この事務室で尋ねたことがある。
「ありません。そこに置いてあるチラシか、外の掲示板のポスターをご覧下さい。」
あまりそういったことは聞かれないのか、職員の方には怪訝そうな顔をされた。
「チラシ」を探すと、2階にある事務室の入り口にそれ用のラックがあり、
おそらくほとんどがそのまま捨てられるであろう、大量のチラシが山とささっていた。
「外の掲示板」は、場所がわからなくてもう一度聞きに戻ったほどだった。
人通りが少なく細い路地に面した、そっけないコンクリートの外壁にそれはあった。
「これじゃあ誰も見ないよな…」切なかった。
僕は特段市民意識が高いわけではない。ただ、誰の目にも触れない
ポスターやチラシほど、イベントを開催する側の人間にとって
悲しいものはないということを、ずいぶん知っているだけだ。
北沢タウンホールは、特定の世界ではかなりメジャーなハコだ。
「修斗」という有名な格闘技団体が、定期的にここで大会を開催していて、
その理由は立地と料金と、ハコの構造がイベント開催にとても適しているから、
と何かで読んだことがある。逆にいえば、何かで読むまで知らなかったのだ。
徒歩5分のところにある良質なコンテンツ(実際、音楽イベントを含め良質な
コンテンツが多い)に、誰も気づかない。その存在を知ることのできる人が
各イベントごとのコアなファンに限定され、偶然のもたらす広がりがない。
「僕の欲しかったカレンダー」をはじめる前から、こんなスクエアな問題意識を
持っていたわけではない。素直に「僕が欲しかった」からはじめただけだ。
けれども「えっ、こんなイベントもやってたの?」という驚きを重ねるにつれ、
そしてそして、北沢タウンホール事務室のなんとも無気力な雰囲気を何度も
味わうにつれ… だって、だって、いつもだれか寝てるんですもの…
( 03'/12/18 川島イタル )
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